スペイン語翻訳者になろう(アンコールシリーズ 第2回)
8月22日から9月26日まで、本メルマガのバックナンバーから
厳選した記事をお届けしています。既読の方も新たな気持ちで読んで
くださいね。
アース&ピーチ
※「アンコール」と言いながら、第ニ回は恐縮ながら「宣伝」を兼ねた
号とさせていただきます。昨年5月に発売致しましたアース&ピーチ
共著による翻訳教材の内容の一部について、ある原文を例にとって
分かりやすくお伝えしていますので、よろしければぜひご覧ください。
※スペイン語の表記:このマガジンは比較的上級者を対象としている
ことから、基本的にアクセントおよびティルデを入れていません。
ただし動詞など重要な部分については入れることがあります。
例)bajo → bajo'(動詞、三人称点過去の場合)
▼以下は本メルマガ第203号記事に一部修正を加えたものですーーーーーーー
アース&ピーチです。
きょうはまず、皆さんに本メルマガの新しい仲間4人を紹介したいと
思います。
というのは、この4人、「スペイン語翻訳勉強会」を定期開催している
らしいのです。はてさて、どんな人たちなんでしょう?
アーチ :この道、十数年の実務翻訳者。翻訳勉強会の講師役を務める。
かんきち:生徒その1。「感情的」な性格で、翻訳にもついつい「感動」を
求めるあまり、訳文が仰々しくなりがち。
ふつみ :生徒その2。「ごく普通」であることを最善と考える性格で、
翻訳にもそれが反映されており、当たり障りのない訳文作りが
ポリシーである。
りろこ :生徒その3。「理論的」、悪く言えば「理屈っぽい」性格。
翻訳においても理論武装のための調査を怠らない。
う〜ん、ひとくせもふたくせもありそうでなさそうな(?)面々ですね。
でも悪いひとたちではないらしく、きょうは特別に勉強会の様子を
見学させてくれるそうです。太っ腹〜!
では、彼らの気が変わらないうちに早速覗いてみることと致しましょう。
☆ ☆
アーチ :はい、みんな席について〜。今日の課題はこれです。
El Fondo Monetario Internacional y el Banco Mundial alertaron de
sobrecalentamiento en economias emergentes y anticiparon la
adopcion de politicas restrictivas de bancos centrales.
かんきち:うわー。こりゃどこからどう見ても経済だ。まいったなあ。
りろこ :かんきち君。たった1文なんですけど。
ふつみ :でもその気持ち、わかる。経済っていうだけで、なんとなく「苦
手〜」と思い込んじゃうのよね。
アーチ :まあまあ。とにかく始めましょう。まずはざっと読んで、調査が必
要なところはないか、確認してみてください。
りろこ :特にないのではないでしょうか。専門用語ということで言えば
Fondo Monetario Internacional=「国際通貨基金」
Banco Mundial=「世界銀行」
ですよね。
ふつみ :もっとマイナーな機関なら調査が必要だけれど、これくらいなら私
たちにもわかります。
アーチ :はい、結構です。ただし少しでも不安があったら、ちゃんと調べる
ようにしてくださいね。
かんきち:あと、専門用語とは言えないかもしれないけれど、
sobrecalentamiento
economias emergentes
politicas restrictivas
この3つはどうですか? sobrecalentamiento は西和辞典にはない
し。
りろこ :でも類推はできますよね。sobre+calentamiento でしょう?
かんきち:でもそれって、どういう意味? 「暑すぎること」?
ふつみ :かんきち君、字が違うんじゃ・・「熱すぎること」じゃないかし
ら。といっても何のことかわかんないけれど。
アーチ :はい、きょうは時間がないので答えを言ってしまいますが、経済の
文脈で sobrecalentamiento は「景気の過熱」の意味で使われてい
ます。日本の80年代後半のバブルの頃を思い浮かべてもらえば、わ
かりやすいと思います。
かんきち:いまとは真逆で、とんでもない値段でモノが飛ぶように売れてた時
ですよね。確かに熱かったなあ。
ふつみ :そうそう! 私もあの頃は高い台に上がって扇子・・いえ、なんで
もありません。
アーチ :・・その話はまたあとでゆっくり聞かせてください。さて、その他
の2つも、何となく分かるのではありませんか?
りろこ :economias emergentes は「新興経済」でしょうか。ブラジル、イ
ンド、中国といった国々のことですよね。となれば「新興国経済」
や「新興諸国経済」などでもOKですか?
アーチ :そうですね、「新興経済」よりは「新興国経済」「新興市場経済」
のほうがよく使われるかもしれません。
ふつみ :politicas restrictivas は直訳すると「制限する政策」だけ
ど・・それってなんでしょう。
かんきち:原文を読むと、これは中央銀行の政策ですよね。例えば日本の中央
銀行は日本銀行だから・・「なんたら引き締め策」とか「なんたら
緩和策」とか言っている、あれのことでしょうか。僕って物知りだ
なぁ・・。
りろこ :物知りさんは「なんたら」とか「あれ」とか言わないと思うけど。
かんきち君、ひょっとして「金融引き締め策」と言いたいんじゃな
い?
かんきち:それだ〜。さすがりろこさん。
りろこ :持ち上げても何も出ません!
アーチ :はい、よくできました。まさに politicas restrictivas は、過熱
しすぎた景気を抑制するために行われる「金融引き締め策」のこと
です。
市中に出回るマネーの量を減らす政策で、日銀の場合ですと、政策
金利である無担保コール翌日物金利の引き上げなどを通じて行われ
ます。中国などでは預金準備率の引き上げも行われています。
3人 :・・・・。
アーチ :ま、まあ、きょうのところは「金融引き締め策」=「金利(利率)
の引き上げ」くらいに捉えておけばいいでしょう。
りろこ :確かにバブル後半のころってとんでもない金利でしたよね。6%と
か7%とか。
かんきち:あああ〜っ。あのころに100万円預けていれば!!
ふつみ :ほんとよね〜。ってそうじゃなくて、つまりはバブルを抑えるため
に日本銀行が金利を引き上げたということなんですね。
アーチ :はい。だいたいそのような理解で結構です。
さて原文に戻りまして、 politicas restrictivas の訳語としては
単に「引き締め策」でも結構ですし、「金融引き締め策」としても
OKです。
りろこ :あ。いまの3つの用語、どれも単数形で「スペイン語経済ビジネス
用語辞典」に載ってますね。さすがだなあ。
☆ ☆
アーチ :さて、それでは直訳をしてみてください。かんきち君?
かんきち:そうですね、あんまり引っかかるところもなさそうだなあ。
El Fondo Monetario Internacional y el Banco Mundial alertaron de
sobrecalentamiento en economias emergentes y anticiparon la
adopcion de politicas restrictivas de bancos centrales.
国際通貨基金と世界銀行は、新興国経済における景気過熱について警告
し、諸中央銀行の金融引き締め策の採用を予想した。
アーチ :はい、それで結構です。確かに、引っかかるところはないようです
ね。さて次は練り訳ですが・・我こそはという人?
りろこ :はいっ。
国際通貨基金と世界銀行は、新興国経済における景気過熱について警告
し、中央銀行による金融引き締め策の採用を予想した。
アーチ :では、この練り訳について自由に意見を言ってみてください。
りろこ :自分でやっておいてなんですが・・「引き締め策の採用を予想し
た」のところがちょっと引っかかります。
かんきち:そうだね。「採用を予想した」がいまいちかな? 例えば「中央銀
行が金融引き締め策を採用するだろうと予想した」にしたらどうだ
ろう。
ふつみ :それなら「中央銀行が金融引き締め策を採用すると予想した」でい
いんじゃない? つまり、
国際通貨基金と世界銀行は、新興国経済における景気過熱について警告
し、中央銀行が金融引き締め策を採用すると予想した。
☆ ☆
El Fondo Monetario Internacional y el Banco Mundial alertaron de
sobrecalentamiento en economias emergentes y anticiparon la
adopcion de politicas restrictivas de bancos centrales.
りろこ :もうひとつ気になるのが、「中央銀行が〜を採用する」の部分で
す。まるで特定の国の中銀を指しているように読める気がして。
ふつみ :確かに、ここで言っている bancos centrales は、定冠詞はないけ
れど複数形だし、流れから言って明らかに「新興国経済(新興諸
国)のそれぞれの中銀」のことですよね。
アーチ :そうです。「新興国経済で景気過熱が警戒され、(それを受けて)
新興国のそれぞれの中銀は金融引き締め策を採ると思われる」とい
う感じで文章が続いていますので、そのあたりのつながりがもう少
し出せるといいですね。
かんきち:複数だからって、直訳と同じように「諸中央銀行」とするのはいま
ひとつだしなあ。「各国中央銀行」などとするのはどうかな? あ
るいは economias emergentes を「新興諸国」に変えて、後ろで
「同諸国の中央銀行は〜」と続けるとか。
国際通貨基金と世界銀行は、新興諸国における景気過熱について警告し、
同諸国の中央銀行が金融引き締め策を採用すると予想した。
アーチ :だいぶ良くなりましたね。もう一歩踏み込んで、前半を例えば「新
興諸国において景気が過熱する恐れがあると警告し」などとするの
はどうでしょうか。後半部分も少しいじって、
国際通貨基金と世界銀行は、新興諸国において景気が過熱する恐れがある
と警告し、同諸国の中央銀行が金融引き締め策を採用する可能性があると
した。
かんきち:わあ、ずいぶん自然な感じになったなあ。でも「恐れ」なんて原文
にはありませんけど・・。
ふつみ :といって原文通り「景気過熱について警告」というのもやや舌足ら
ずではあるわよね。
アーチ :はい。この場合は「景気過熱が起こる可能性があると警告した」と
いうことであり、しかも景気過熱は「悪い可能性」であるわけです
から、それを「恐れ」と表現したとしても、原文から逸脱すること
にはならないと思います。
りろこ :「景気が過熱する懸念があると警告し」などはどうですか?
アーチ :それもいいと思いますよ。他には・・・・
☆ ☆
再び登場のアース&ピーチです。
「生徒3人+講師1人」の勉強会、かなり白熱した展開でしたね。
ちょっと見学・・のつもりが、思わず引き込まれて長居してしまいました。
あの4人はまだ議論を続けているようですが、覗くほうも疲れてきたので、
きょうのところは、この辺で引き揚げると致しましょう。
さて現在、この4人が大活躍する2冊の翻訳教材を発売中です。
今号を読んで興味をお持ちになった方は、ぜひ
http://www.pie.vc/textbook/02.html
から詳細をご覧くださいね。
---------------------------------------------------------------------
☆★スペイン語翻訳解説書 第2弾★☆
「スペイン語実務翻訳講座(基礎編)
〜ちょくねりメソッドで確かな翻訳力をつけよう」
「経済スペイン語翻訳講座
〜ちょくねりメソッドで確かな翻訳力をつけよう」
◎ 定価 各2,000円(税込)
◎ PDFファイルでのダウンロード販売
◎ A4サイズ
◎「基礎編」約100ページ/「経済」約60ページ
お申し込みはこちらから
→http://www.pie.vc/textbook/02.html
---------------------------------------------------------------------
※本メルマガに登場した4名はすべて架空の人物であり、実在の人物とは
一切関係がありません。
| 固定リンク