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2009年6月24日

 スペイン語翻訳者になろう vol.125

 おはようございます。ピーチです。
 気がつけば上半期最後のメルマガなのですね。この半年、自分が
 何をしていたのか、5月のセミナー以外はすでによく思い出せません。
 皆さんはいかがですか?

 さて、今号は先週の続き(後編)です。
 早速入って参りましょう。

  ※スペイン語の表記:このマガジンは比較的上級者を対象としている
   ことから、基本的にアクセントおよびティルデを入れていません。
   ただし動詞など重要な部分については入れることがあります。
   例)bajo → bajo'(動詞、三人称点過去の場合)

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┃  実は難しい、単純な単語の訳し方 〜civil〜(後篇)
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

先週は、

Egipto lanzara' un programa para construir varias centrales civiles
de energia nuclear. El presidente egipcio, Hosni Mubarak, indico'
que la construccion de las centrales se realizara' con transparencia
y cooperacion de la Agencia Internacional de Energia Atomica (AIEA).

という原文のうち、centrales civiles de energia nuclear の
civil の訳語として何をあてはめればよいか、という問題提起を
したところで終わっていました。

具体的には、「civil(民生の)は privado(民間の)とは違う。
国が作ろうが民間会社が作ろうが、軍事利用でなければ civil で、
日本語ではこれを『民生』と表現する」という講師のコメントに対し、
「日本語では『軍人』との対比の意味で『民間人』という表現を使う
ので、『軍事利用の原発』との対比として『民間の原発』などと
表現してもいいのではないか」という指摘があった、という話でした。

みなさん、考えていただけたでしょうか?そして結論は出ましたか?

この話を、「軍事/民間」という反対語のペアで考えている限り、
確かに「民間」を使っても良さそうです。が、「民間」という言葉は
「軍事」の反対語であるとともに、「公的・公共」の反対語でも
あります。つまり「民間」という言葉は「非軍事」も意味するけれど、
同時に「公的・公共でない」という意味も表すわけです。

今回のエジプトのケースを調べたところでは、国策としての電力増強計画
という感じの発表のされ方のようですので、エジプト政府の出資である
ことはまず間違いありません。実際の建設・運営には(入札などを通じて)
外国の民間企業の力を借りる可能性が高いですが、それでも基本的に所有
するのは政府ということです。実際にはおそらくエジプト電力公社などの
所有になるのでしょう。

つまりこの原発は「公的機関の出資で建設され、非軍事目的で利用される
もの」ということです。それなのに「民間」という用語を使いますと、
この「公的機関の出資で建設」という部分が表せないだけならまだしも、
「民間出資」というまったく逆の意味にとられる可能性が高くなります。
この点、「民生」という言葉は「非軍事」のニュアンスしかありませんので、
今回のケースで使っても何ら問題がないわけです。

ニュアンスの上では civil=民生、privado=民間 が基本と言えそうです。
ただ、civil が「民間」と訳せる場合もあります。逆に privado が
「民生」と訳せるケースはないと言っていいでしょう。

「スペイン語と日本語の単語(の意味)は一対一で対応しているわけでは
ない」ということを私たちはつい忘れがちですが、今回の civil(民生/
民間)のケースは、その良い例になっているようですね。日本語の「民間」
という言葉とスペイン語の privado では、意味的に重ならない部分もある
ということでしょう。

したがって今回のケースでは、「民生用の原子力発電所」と訳すべき
であるということになります。

もうひとつ大事なことをつけくわえておきます。仮に今回の原発が
「政府のお声掛かりながら民間資金を用い、非軍事目的で建設される」
のであれば、「非公的機関による非軍事利用のもの」という両方の意味で
まさに「民間の原子力発電所」なのだから、そう訳しても良いかも?と
思われるかもしれません。しかしこの原文でわざわざ civil という言葉を
使ったのは、

 1)民間企業の出資でなく、公的機関の出資である
 2)軍事利用でなく、民生(民間)利用である

のうち、1)の観点で話をしたかったからではなく、2)の観点で
話をしたかったからだと思います。極論すれば、出資はどこでも
構わないが、重要なのは非軍事利用であるという点なのでしょう。
繰り返しになりますが、1)を強調したかったのであれば、privado を
使うはずです。したがって、やはり今回の場合は「民生」を使うべき
なのでしょう。

「民間」と「民生」の意味はよく似ているが、表現する際の視点
(切り口)が違うということなのでしょうね。このあたり、civil
と privado に限った話ではなさそうです。その視点がどこにあるかを
考えずに、似たような日本語から適当に選んでしまってはいないか、
常に気をつけていただきたい問題です(自分で言っていて耳が痛い
ですが・・)。

※蛇足で付け加えておきます。調査している過程で、日本では一部の
 産業において「民生用」という言葉を「業務用」「軍事用」以外の
 「一般家庭用」の意味で使っていることがわかりました(ただし、
 スペイン語ではこの意味で civil という言葉は使っていないと
 思います)。

◆編集後記◆
アースです。
2週にわたってお届けした「civil と民生/民間の使い分け」の
話はいかがでしたか? 上記では「エジプト政府のお声掛かり・出資云々」
と回りくどいことを言っていますが、実はIAEAの協力を受ける
(つまり監視される)という文章が出てきた時点で、「国営か民間経営か」
という問題は意味がなくなり、「軍事か非軍事か」という部分に視点が
自動的に切り替わります。IAEAは核の平和利用を促進するための
機関であって、その核施設を作るお金を出すのが誰かということには
無関心(であるはず)だからです。したがって今回のケースでは、国営/
民間経営ではなく、軍事/非軍事という観点から civil という言葉を
訳す必要がある、という判断ができることになります。
ともあれ今回言いたかったのは、IAEAというヒントがあろうと
なかろうと、「民生と民間という言葉がそういう視点で使い分けをされて
いる」という認識がないと、civil を適切に訳すことはできない、という
ことです。
もちろん、「最初からこの使い分けについて正確に知っていないとお話に
ならない」ということはありません。わからなければ調査すればいいのです。
それでも、まったくひっかかりがなければそのまま「民間」としてしまう
可能性もありますから、こういうときに「他に言い方があったような・・?」
と思い出せるように、どこかの時点でその言葉を拾い上げることの
できるアンテナを育てておくことがとても重要だと思います。この
「ちょっとしたことにぴぴっと反応するアンテナ」については、次週お話し
する予定ですので、楽しみにしていてくださいね。


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  スペイン語翻訳者になろう〜プロが教える実践翻訳術
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  ピーチ:都会の翻訳者。「ものぐさ星」からやってきたものぐさ星人。
      夏休みの宿題は9月1日まで手をつけないタイプ。何に役立つ
      のかよくわからない発作的なアイデアと瞬発力だけを頼りに生
      きる。
  アース:田舎の翻訳者。本人に自覚はないが、こつこつ星人に見えるら
      しい。夏休みの宿題は7月中に終わらせるタイプ。長い渋滞で
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      さ(お気楽さ?)が武器。
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