スペイン語翻訳者になろう vol.103
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100号記念 アース&ピーチ特別座談会
現役翻訳者が明かす、仕事の流儀
〜我流ですけど、なにか?〜
【後 篇】
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(前回、ケーキの誘惑に負けて、対談を途中で切り上げたアースとピーチ。
後日、別のカフェに集合して対談を再開)
ピーチ(以下P):100号記念対談の後篇です。気持ちを新たに始めましょ
う。
アース(以下E):でもまたカフェですよ。またケーキ食べるんですか?
P:といいつつ、3種類も注文したのは誰?(わたしもだけど)
E:12月はケーキを食べる月だからね、いいんです。じゃあ、ケーキが来る前
に話を終えられるよう、早速始めましょうか?
P:そうですね。きょうで終わらないと、「前篇・中篇・後篇」の3部になっ
てしまいますから。
前回は「翻訳に入る前に下準備をするか」というテーマで話が終わったわ
けですが、今回はその続きということで、いよいよ実際の翻訳の話に入っ
ていきます。「訳す際に最初からきっちり訳すか、それとも、まずはかな
り大雑把に訳して後で詰めるか」、この点はどうですか?
E:わたしは一度訳してしまうと後で間違いに気づきにくい方なので、どちら
かというと初めからきっちり訳していきます。途中まで訳して最初の方が
あまりに的外れであることに気づいた場合は、その場ですぐに戻って直し
ます。
P:これは性格がでるのかな?万事に大雑把なわたしは「まずはざっくり訳す
派」です。もちろん例外もありますが、多くの場合は、まず全体の試訳を
作ってしまってから、じっくり加筆修正していく形式をとっています。で
も、このやり方は西和翻訳をおこなう際に強く出る傾向のようで、和西の
場合は最初の訳の段階からもう少し詰めて考えているかもしれません。な
ぜなんだろう?たぶん原文が日本語だと、初見でかなり正しく意味をとれ
るから、訳す際にも正確にやろうという気持ちが働くのかなあ?それはと
もあれ、この辺のやり方は、完全に好みの問題ですよね。
E:はい、どれがいい悪いということはないと思います。どういう方法を取ろ
うと、最終的な成果品の品質がよければ構わないわけですから。ただ、わ
たしのようなタイプでも、ピーチさんのようなタイプでも、極端に丁寧、
あるいは極端に雑にすることは避けたほうがいいですね。後者はもちろん
のこと、前者でも的外れだとわかったときに無駄が多くなるし、あまり立
派に仕上げてしまうと、こんどは間違いに気がつきにくくなりますから。
P:その通りだと思います。ところで、調査にはどのくらい時間をかけていま
すか?アースさんといえば「調査の達人」なので、ぜひ聞いてみたい。
E:またまたもちあげちゃって。何にも出ないですよ。ってさっきジャムをあ
げたんだっけ。えーと、根っからの調査好きなもので、時間がある限り調
べてしまいますね。とはいえ、いま自分がやっている調査が仕事なのか趣
味の範囲なのかという見極めはちゃんとつけていますので、時間がない場
合はあっさり諦めることもあります。その仕事には直接関係がなくても、
持っていたほうがいいなと思える知識であれば、仕事が終わったあとに
ゆっくり調べることもあります。
P:それはさすがですなあ!
E:てへへ。ジャムもう1個あげる。・・・あと、調査がつかなかった場合、
クライアントに対して不明点を明確にしたうえで「あとで結果を知らせ
る」旨を連絡し、まずは納品してしまうこともあります(クライアントに
よっては許可してもらえないこともあるかもしれませんが)。で、改めて
調査だけを行うわけです。
P:それもありますね。そのように「何が不明であるか」を明示することが大
事だと思います。不明であること(調べがつかないこと)は、大抵の場
合、翻訳者の落ち度(実力不足や手抜き等)によるものではないのですか
ら、うやむやにしてしまわず、正直に文字に残しておくことが必要です
ね。それから、調査をあきらめる最後のライン、というか決め手のような
ものはありますか?
E:う〜〜ん、そうですね、「経験」かなあ。我々の場合、辞書(スペイン語
経済ビジネス用語辞典)の制作時に朝から晩まで調査していましたから、
「どこまで調べてみてだめなようなら諦めたほうがいい」的な見切り感覚
が身についているのですよね。でもネットの中身は変化が激しいので、
ちょっとさぼったらすぐにその感覚は消えてしまうと思います。幸か不幸
か、辞書執筆後も調査三昧の日々を送っているので、いまのところは消え
ていませんが。
P:そうですね。「調査をもう少し続けるか、あきらめるか」を判断するのに
必要な感覚は経験によってしか養われないものですね。調査の手法はこの
メルマガなどを参考に学べるとしても、それ以上の感覚的な部分は、読者
各位が日々自力で調査するなかで体得していただくしかないわけです。で
もやっていれば、ある程度は必ず身につくものですから、あきらめないで
ほしいですよね。
E:その通りです。
P:ところで、スペイン語の原文について、「翻訳者なら辞書をひかなくても
さらっと理解できるんでしょ?」と言われることもありますが、実際のと
ころどうでしょうか。
E:定期的な翻訳の際は、一日で一度もひかないこともあります。でもそれは
極度に繰り返し要素の高い文章だからで、慣れていない分野の文章の場合
はめちゃめちゃひきますね。
P:スペイン語の初学者ですらひかないような単語でもね。
E:そうそう。名詞だけでなく、動詞や形容詞も分野が違うと使われ方が変
わってくるので、けっこうしつこく引きます。また、西和・和西辞書は言
うまでもないですが、ネット辞書や国語辞典、英和、英英、英西、西西、果
ては独仏葡などあらゆるものを駆使します。日本語では類語・反語辞典、ス
ペイン語では用例、Dudas やコーパスなどもよく使うかなあ。
P:わたしも慣れた分野ではそれほどひかないのですが、慣れほど恐ろしいも
のはなく、とんでもない思い違いをしていることもあります。だから、慣
れた分野ほど慎重になるべきかもしれないとはよく感じます。
E:耳が痛いなぁ。ただ時間に追われていると、つい・・ね。その「つい」が
最もいけないのですけれど。
P:う・・・。「つい・・・」の繰り返しで人生を送ってきた自分は、速攻で
テーマを変えさせていただきます。訳文の見直しは何度くらいしますか?
E:わたしの場合は基本的に3度と決めてます。画面上で一度、印刷して一
度、直しを入れてもういちど印刷して一度。できればそれぞれの間に時間
を置いて。もっと多い回数やったほうがいいのではとの考えもあります
が、回数を制限して、一回一回により集中した方がわたしの場合は間違い
を見つけやすいみたいです。「もう一度見直す」という考えが頭のなかに
あると、いい加減になりかねないので。もちろん、根本的に誤解していた
ような部分が一箇所でもあった場合は最初からやり直しです・・。
P:「3度と決めている」のですか!それはかっこいい!(・・・何が?)。
わたしはいきあたりばったり型なもので、見直しのスタイルも「方針な
し」です。本能の命ずるままの回数(?)見直しを行なっております。た
だ、和西翻訳と西和翻訳の別でいえば、西和のほうが見直し回数は多いよ
うに感じます。それは、西和は母国語である日本語に訳すということで、
自分にとっての「練り幅」が広く、創造的な要素が濃くなってしまう分、
丹念に見直さないと危険!というのが理由なのかもしれません。
E:なるほど、練り職人のピーチさんならではの発想ですね。
P:練るの、好きですからね。練りに集中しているうちに時間を忘れ、いつの
まにか朝を迎え・・たことは一度もありませんけれど。あ、そうだ、納期
が厳しいとき、徹夜はしますか?
E:絶対しません。寝不足になるとすぐに体調に響くので。
P:わたしもです。徹夜しないとできないような仕事は受けません。
E:上に同じ。ただ、納期が極めて厳しいときは、午後9時頃寝て早朝からや
るときがあります。そのほうが絶対に能率もあがるし品質も良くなります
からね。朝の2時間・3時間て、能率上がりますよね。電話はないし、訪
問客はないし。メールはピーチからしか来ないし。いまはそんなことない
ですが、以前はネットも早朝のほうが快調だったなあ。
P:そうなんですか!ネットもご主人さまの生態に似るんですね。わたしは、
幼児がいるという家庭環境上、夕方から夜の時間は仕事ができませんの
で、〆切前には早朝・・というか夜中の2時台や3時台に起きて仕事をす
ることも珍しくないです。ただ、こっそり起きだして仕事しようとした瞬
間こどもに感づかれて泣かれ、やむなく布団に逆戻りし、「ああ、間に合
わない」とやきもきしつつも、片手をしっかりこどもに握られているので
脱出できない・・などということもままあります。そういうときは現状に
逆らわず、「あとで取り戻せばいいや」と割り切ったほうがいいみたいで
す。そのくらいフレキシブルに考えられないと、仕事と家庭の平和共存は
不可能かもしれませんね。アースさんは仕事の繁忙期、家庭生活はどう乗
り切っていますか?翻訳者志望の方の中には、「家族持ち翻訳者の締切前
の生活乗り切り術」的なことに関心がある方も多いのではないかと思いま
すが。
E:確か昨年末のメルマガ対談でもお話したように思いますが、「自分はこれ
これで忙しいので、何日(何時)頃までいないと考えてくれ」というよう
なことを伝えます。そうすれば家族も諦め?がつきますし、こちらも心置
きなく仕事に集中できます。家事も手抜きできるところはごっそり手抜き
する。使えるものは使いまくる。
P:たとえば、外食などですね。
E:そうそう。でも幼児相手だと手の抜けないところもあってたいへんですよ
ねぇ。その点、うちなんか楽なほうですよ。
P:今はそうかもしれませんが、家庭を取り巻く環境はいつまでも同じでな
く、ある日突然大変になることもあれば、目に見えて楽になったりもする
ものですから、そのときどきで臨機応変に対応できるだけの心のゆとりが
大事かもしれませんね。これまた「言うは易し」ですが。
E:そうですね。とくに在宅翻訳者は、会社勤めの人に比べて暇だとか時間に
融通がきくとか思われてしまう部分がありますから、環境変化への柔軟性
は求められるでしょうね。
あ、ケーキが来ましたよ!わーい!(そわそわ)
P:今回はうまい具合に話が一段落したところでお茶が来てよかったですね。
では100号記念の対談はここで終了とさせていただきます。
E:今年も本メルマガをご愛読いただき、まことにありがとうございました。
31日と1月7日の2回、お正月休みをいただきまして、来年14日にまた
お目にかかります。どうぞお元気でよいお年をお迎えください!
P:来年も楽しくためになるメルマガ作りを心がけてまいりたいと思います
ので、ご感想やご要望などがあれば是非お寄せくださいね。
皆様がお元気で楽しい年末年始を過ごされますことを祈っております。
あと・・・われわれは正月太りが行き過ぎないよう注意せねばですな。
E:(ケーキをぱくつきながら無言で深くうなずく)
P&E:では、Feliz Navidad y Prospero Ano Nuevo!
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