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2008年5月14日

 スペイン語翻訳者になろう vol.076

 おはようございます。アースです。
 5月14日、ついに本日発売です!何がって?
 アース&ピーチ共著による翻訳学習教材、
  『スペイン語実務翻訳講座
      〜ちょくねりメソッドで確かな翻訳力をつけよう』
 です!!予約特典期間は終了しましたが、もちろん引き続き販売は
 しておりますので、よろしければぜひ手に取ってごらん・・いただけ
 ないので、
 http://pie.vc/textbook/index.html
 にて詳細をご覧下さいね。

 さて、そういうわけで今週号も「ちょくねり(教材発売記念バージョン)」
 です。先々週の直訳、先週の練り訳第一段に引き続き、今回は練り訳
 第二段。
 教材作成のときと同じような調子で解説を入れていきましたので、
 さらに来週までずれ込むか?といった感じの細かさ(しつこさともいう)
 になりました。
 たった一段落なのに、まったく翻訳とは一筋縄ではいかないものです。
 それではアース&ピーチ作の力作をご覧下さい。

  ※スペイン語の表記:このマガジンは比較的上級者を対象としている
   ことから、基本的にアクセントおよびティルデを入れていません。
   ただし動詞など重要な部分については入れることがあります。
   例)bajo → bajo'(動詞、三人称点過去の場合)

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃   「ちょくねりメソッド」で翻訳に挑戦しよう
┃       〜教材発売記念バージョン〜
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

今回は、前回までと同じ課題を使って行う「練り訳の後半」です。
これまでの学習内容を忘れてしまった人は、過去2回のメルマガに
ざっと目を通してからお読みくださいね。

【課題文】
La llama olimpica fue escoltada en todo momento por la policia
australiana, mientras tres guardas chinos que habitualmente
la acompan~an se quedaron en la retaguardia y no tuvieron que
intervenir en ningun momento para garantizar el desarrollo pacifico
de los relevos. (EFE)

原文→http://www.terra.com/deportes/articulo/html/fox575319.htm
    (課題文は3段落目)

【直訳例】
聖火は、いかなるときにもオーストラリアの警察によって護衛された。その
間、いつも聖火に同行している3人の中国人警備員は背後にとどまり、リレー
の平和な進展を保証するために介入する必要はいかなるときにもなかった。

【練り訳たたき台】
聖火はずっとオーストラリア警察によって護衛されていた。一方で、常に聖火
に同行している中国人警備員3人は背後にとどまり、リレーが平和裡に行われ
るよう介入する必要は一度もなかった。

【検討プロセス】
翻訳者A(以下A):tres guardas chinosですが、【直訳例】では「3人の
  中国人警備員」、【練り訳たたき台】では「中国人警備員3人」となって
  いますね。語順が変わっていることには何も意味はないですよね?

翻訳者B(以下B):ないです。人数を先に持ってきたからと言って「3人」
  という数を強調しているというわけでもないですし。

A:そうですね。「3人の中国人警備員」でも「中国人警備員3人」でも、
  ニュアンスにまったく変わりはないですね。

B:ただ、ひとつ問題があります。いまの訳文ですと、「聖火に同行している
  中国人警備員=常に3人」という印象を与えかねないということなんで
  す。オーストラリアでは3人でしたが、国によってはもっと多いところも
  あったようなので、「中国人警備員は常に3人とは限らない」という印象
  を含んだ訳にできれば理想的なのですが・・。

A:う〜ん。しかしそれを具体的に訳文に盛り込むわけにはいかないですよ
  ね。そこまで書こうとすれば、訳文が説明調にならざるを得なくなり、翻
  訳の域を逸脱しますし、原文にないものを付け加えることにもなります。

B:確かに。それにそもそも「警備員の数が各国で違う」などという情報は、
  この記事とは何の関係もありませんしね。

A:そうですね。ただ、今回はともかくとして、こうした背景知識を持ってい
  ると、誤訳を防げたり、より的確な訳ができる場合はあると思います。

               ☆

A:se quedaron en la retaguardia の「背後にとどまり」は、【直訳例】の
  段階から変わっていませんが、まだちょっと固い感じがしますね。

B:同感です。ほかの言い方をするなら、たとえば「オーストラリア警察の後
  ろで待機し」とか?

A:しかし、「待機し」ですと、「止まっている(走っていない)」印象を与
  えません?実際は、聖火と一緒に前進してはいたわけですよね。

B:ほんとだ。それでは、たとえば「オーストラリア警察の後塵を拝し」で
  は?ちょっと言いすぎ?

A:そうですねえ。「後塵を拝す」は「地位の高い人に追従する」とか「他者
  に先んじられる」の意味が強いので、この場合には合わないかもしれませ
  んね。

B:言われてみればそうだなあ。retaguardia(後衛、背後、銃後)なんて勇
  ましい言葉をみると、ついつい重々しい熟語や慣用表現を使いたくなりま
  すが、その誘惑(?)に安易に乗らないようにすることも大事ですね。訳
  者が訳文に酔ってしまってはだめですから。

A:起こりがちですけれどね。で、この部分ですが、やはりシンプルにまとめ
  るのが一番よさそうかな。「オーストラリア警察の後方に控え」とか、
  「オーストラリア警察の後方に続き」とかはどうですか?

B:うーん、「後方に続き」はいいですが、「後方に控え」というと、やや遠
  慮深い感じが出るかもしれないですね。
  実際のところはどうだったのかと思い、事情を少し調べてみたのですが、
  オーストラリア政府は最初「中国警備隊」の伴走を拒否していたが、最終
  的には「聖火の受け渡し補助」の名目で、数人だけ認めたということでし
  た。スタート時には、警備隊の位置を巡ってもめただとか、警察が警備隊
  員をリレー走者から引き離している場面が何度もあったとか、そういった
  報道もあったようです。だから「後方に控え」よりは「後方に続き」のほ
  うが良いかもしれません。「後方を進み」などでもいいかもしれないです
  ね。

A:なるほど。

               ☆

A:ところで、先々週の直訳解説では、

   retaguardia を辞書で引きますと「《軍事》後衛、銃後」(白水社
   『現代スペイン語辞典』)などといかにも大げさですが、要するに、
   「とくに混乱が起きなかったので出番がなく、オーストラリア警察
   に護衛を任せていた」ということでしょう。

  と書きましたが、前項でも触れたように、「もともとオーストラリア政府
  は中国警備隊の伴走を拒否していた」こと、とくにスタート時に、中国人
  警備隊とオーストラリア警察との間で悶着があったことなどを踏まえる
  と、「混乱が起きなかったので出番がなかった」わけではないようです。

B:つまり、中国側は「不本意ながら、オーストラリア警察の後ろについてい
  た」ということだったわけですね。

A:はい。原文だけのイメージで訳すと、「間違いとまでは言えなくても、筆
  者の意図から微妙にずれた訳文になってしまうことがある」ということの
  好例になってしまいました。

B:そうしたずれを防ぐためにも、ちょっとでも疑問を感じたら、すぐに調査
  するようにしたいですね。

               ☆

A:para garantizar el desarrollo pacifico de los relevos の訳は、「リ
  レーが平和裡に行われるよう」となっています。

B:「desarrollo=進展」という直訳パターンを脱出しようという工夫の跡が
  見えますね。

A:はい、そこを見る限りでは良いようなのですが、その前の no tuvieron
  que intervenir en ningun momento から続けて目を通すと、「リレーが
  平和裡に行われるよう介入する必要は一度もなかった」となり、日本語的
  に少々違和感があります。

B:「行われるよう」と「介入する」の組み合わせのせいかもしれませんね。
  「介入する」のは「なにか悪いことが起こらないように」であることが多
  く、「よいことが起こるように介入する」という言い方に耳馴染みがない
  からではないでしょうか。ただ、単になじみが薄いというだけで、間違い
  だとまでは思いませんが。

A:では、「リレーが無事進行するよう手を出す必要はなかった」ではどうで
  しょうか。

B:「手を出す」というのが少々口語っぽいですが、「介入する」に比べれ
  ば、「リレーが無事進行するよう」とのつながりに違和感は少ないような
  気がします。

A:「介入する」や「手を出す」の代わりに、「関わる」や「関与する」など
  の動詞も使えそうですし、一歩進んで「出動する」などというものもいい
  かもしれませんね。

               ☆

A:以上の検討を踏まえ、今回は以下の通り【最終的な練り訳例】を2パター
  ン用意してみました。

B:案1のほうが比較的保守的な(練り度の低い)訳、案2はかなり冒険した
  (練り度が高い)訳となっています。

A:案2の一文目など、誰の許可も得ずに語順を変えてしまっています
  ので(笑)、練り訳にまだなじみの薄い方は「これでいいの?」と
  思われるかもしれませんが、この文章が言わんとするところはちゃんと
  表していますので問題ありません。それに、前の段落ともなめらかに
  つながりますし、直後の文章との対比も鮮やかになると思います。

B:こんな訳し方もあるんだという参考にしてみてくださいね。

【最終的な練り訳例】
案1)
聖火は終始オーストラリア警察が警護していた。一方、常に聖火に同行してい
た中国人警備隊の3人はオーストラリア警察の後方に続き、リレーを無事進行
させるため関与する必要はまったくなかった。

案2)
聖火を警護していたのは一貫してオーストラリア警察だった。常に聖火と行動
を共にしていた中国人警備隊の3人は豪警察の後方を進み、リレーの無事進行
のために出動する場面は一度もなかった。

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       ・A4サイズ・約130ページ
       ・定価4,000円(税込)
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◆編集後記◆
ピーチです。
今回のちょくねり(教材発売記念バージョン)はいかがでしたか?
最初、「このように短くて単純な課題文では、教材で展開しているような執念
深い(?)解説をするのは無理かな。せっかく皆さんに教材の特長をお見せで
きる機会なのに」と少々残念に思っていました(自分たちで課題文を選んでお
いて言うのもなんですが)。
・・・が、そんなもくろみはとんでもなく甘かったようです。
本当に翻訳というのは奥が深いもので、どんなに「ちょろそう」な原文でも、
いくらでも「深めどころ」は見つかるものですね。
今回のちょくねりを読んで、「樹海のような翻訳の森をもうちょっとさまよっ
てみたいな」と思われた方には、本日発売の教材をお勧め致します。
樹海とはいえ、公認ガイド(?・・つまり、私たち2人)がついていますの
で、いくらさまよっても迷子になることはありません。安心して飛び込んでく
ださいませ。

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